コラムcolumn
賞与の給与化 ― 安定収入と社会保険料についての新たな視点

最近、お客様から「賞与としてじゃなくて、その分を給与で支払うのはどうだろうか?」というお話がありました。
皆さんこんにちは、グスクード社会保険労務士法人です。
ネット界隈でも「賞与の給与化」という言葉を目にするようになってきました。
企業が従業員の安定した生活を支えながら、人件費や社会保険料の負担を見直す考え方として、
近年注目されているのが、実はこの「賞与の給与化」なのです。今回はその仕組みと注意点をお伝えします。
1. 「賞与の給与化」とは
従来、年2回や年3回などで支給していた賞与を廃止または縮小し、
その原資を毎月の給与(基本給・手当)に上乗せして支給する仕組みです。
たとえば、年間60万円の賞与を12か月で均等に割り、月5万円を上乗せして支給する形などでしょうか。
2. 一般的なメリット
- ① 収入の安定化:毎月の手取りが増えることで生活設計が立てやすくなる。
- ② 人件費の平準化:賞与月に偏らない資金計画が可能になる。
- ③ 制度運用の簡素化:賞与査定や業績連動部分を整理できる。
3. 高所得者における社会保険料減少の仕組み
賞与の給与化が社会保険料の負担軽減につながるケースとして、
特に注目されるのが標準報酬月額にみる「厚生年金保険料の上限」の存在です。
(1) 標準報酬月額には上限がある
厚生年金保険では、報酬月額に応じて保険料が決まりますが、
上限(2025年時点では「標準報酬月額 65万円等級」など)が設定されています。
この上限に達している高所得者の場合、
給与をさらに上乗せしても、それ以上は保険料が増加しません。
(2) 賞与には上限が別途存在し、都度保険料が課される
一方、賞与を支給すると、支給のたびに社会保険料が課される仕組みになっており、
賞与額にも保険料算定の上限(厚生年金では1回あたり150万円)が適用されます。
つまり、
- 「賞与」として支給 → 150万円以下はその都度、保険料が発生
- 「給与」に組み替え → 上限に達していれば追加保険料は発生しない
という違いが生じます。
(3) 結果としての保険料減少効果
このため、もともと高給与者(標準報酬月額が上限等級に達している者)については、
賞与を給与化しても保険料負担が増えず、
むしろ賞与支給時に発生していた社会保険料負担が生じません。
結果として、
企業・本人双方にとって保険料の減少効果が生まれるケースとなります。
ただし、この効果を求めてよくわからず実施してしまうと、かえって保険料の増額などを招いてしまうリスクがあります。
4. メリットとデメリットの整理
| 観点 | メリット | デメリット |
|---|---|---|
| 労働者 | 収入が安定する・手取りが予測しやすい・高所得者は保険料負担が軽減 | 年間一時金の喜びが薄れる |
| 企業 | 人件費の平準化・保険料負担の減少(上限者対象) | 設計を誤ると保険料増や制度不満を招く可能性 |
| 制度運用 | 査定・支給判断の簡素化 | 就業規則・賃金規程の改定が必須 |
5. 制度変更時の実務対応ポイント
- 保険料状況を確認する
制度変更前後の標準報酬月額および保険料を確認する。 - 就業規則・賃金規程を改定する
賞与規定を廃止または改定し、給与として反映する。 - 労使協議と説明責任
制度変更に伴う不利益変更の有無を確認し、十分に説明・同意を得る。 - 税務面の整理
給与と賞与で課税タイミングが変わるため、源泉所得税にも注意が必要。
6. まとめ
賞与の給与化は、単に「支給タイミングを変える」施策ではなく、
賃金制度・社会保険・税務を一体で見直す仕組み改革です。
特に、高所得者層では厚生年金保険料の上限があるため、賞与を給与化することで実質的な保険料が減少するという副次的メリットがあります。
一方で、制度設計を誤ると保険料増加や手取り減少を招くおそれもあるため、
人事労務・社会保険の専門家と連携して試算・設計することが不可欠です。
「賞与を給与に変える」という発想は、
短期的な報酬体系の変更に見えて、実は企業の報酬戦略全体を再構築する契機でもあります。
社会保険料負担、従業員満足度、経営の安定——
これらをどうバランスさせるかが、今後の人事戦略の鍵となるでしょう。
グスクード社会保険労務士法人では賃金設計をはじめ、様々な人事労務コンサルティングをご提供いたします。




