コラムcolumn
【後編】会社のPCに飲み物をこぼして故障させた従業員に、修理費は請求できる?
こんにちは。
グスクード社会保険労務士事務所です。
今回は、前回の【前編】➀の論点に引き続き、
PCを故障させた従業員へ、修理費を請求できるか、という案件の、
2つ目の論点について、ご案内いたします。
(【前編】はコチラ👉👉👉https://guscoord.jp/wp/column/7845/
➁実際に、従業員へPCの修理・買替費用を負担させることについて
では、次に、従業員に対し、実際に損害賠償を請求した場合に、
その請求は認められるのか、あるいは、どのくらいの金額を請求できるのでしょうか。
この点について、日本の法律の基本原則のひとつに、
『利益を受ける者が、責任も負担すべき』という考え方があります(報償責任の法理)。
この考え方によると、会社が事業活動により利益を受けている以上、
事業活動により生じる責任・リスクも会社が負担すべき、ということになります。
そして、上記のように、従業員の過失により、PCが故障することも、
事業活動におけるリスクの一面である、と捉えられています。
実際、過去の裁判例でも、基本的には、この考え方により判断されており、
その結果、従業員に対し、損害額を全額負担させることは、まず認められません。
一方、従業員側の立場から見ると、過失によりPCを故障させる行為は、
民法上の不法行為に該当する可能性が高く、全く責任を負わないわけではありません。
この点について、裁判所では、会社と従業員の経済力の差や、
従業員の労務提供により、会社が利益を上げている点を踏まえ、
「信義則上相当と認められる限度において」のみ、
損害賠償を求めることができる、と考えられています。
そして、この「信義則上相当な限度」とは、それぞれの案件における、
「従業員の責任(≒過失)の重大さ」、「従業員の地位・職務内容」、
「損害発生における会社の関与度合い」などを総合的に考慮した上で決定され、
それに従って、従業員が負担すべき割合を、具体的に決めていく傾向にあります。
その結果、過去の多くの裁判例において、従業員の負担割合(責任割合)は、
『損害額の4分の1(25%)程度』という、一定の基準が示されています。
以上の点により、従業員がPCに飲み物をこぼし、故障させた場合、
PCの修理費・買替費の全額を負担させることはできず、
仮に、費用の一部を負担させることができるケースでも、
その金額は、修理費・買替費の25%程度にとどまる、ということになります。
もっとも、上述した内容は、一定の目安に過ぎず、
実際に従業員へ負担させることができる金額は、ケースバイケースです。
例えば、日ごろから、従業員がPCのそばにマグカップを置いたまま仕事しているのを、
会社側が黙認していた場合などは、費用の一部負担すら認められない可能性もあります。
そこで、「デスクでは、蓋つきの容器に入った飲料のみ、置くことを認める」など、
常日頃から、従業員の働く環境に対するルールを定めておくことが大切になります。
なお、実際の過去の裁判例では、次のようなことも述べられています。
『継続的な労使関係において、使用者は、その都度、損害賠償で責任を追及するのではなく、
労働者の労働過程上の落度については、長期的視点から成績評価の対象とすることで、
労働者の自覚を促し、それによって再発を防止していこうと考えるのが通常である。』
つまり、従業員の過失による損害については、いちいち賠償請求をせずとも、
人事評価の対象にし、給与・賞与支給の際の査定の材料として処理すべき、ということです。
ただし、裁判例が示すように、従業員の過失を、人事評価の材料として処理するには、
上記のように、従業員の働く環境に対するルールを定めることはもちろん、
客観的で明確な基準を持つ、人事評価制度を構築し、導入しておくことも重要です。
人事評価制度に関するご相談は、ぜひ、グスクード社会保険労務士事務所へ。